人材不足の時代に「選ばれる施設」とは
「求人を出しても、応募が来ない」——福祉の現場で、こうした声が年々強まっています。人材不足が深刻化するなか、施設が「選ばれる」ためには何が必要なのでしょうか。本記事では、最近の統計をもとに、職員の声を聴き、運営に活かす姿勢が、これからの人材確保に果たす役割を考えます。
福祉の人材不足は「構造的な課題」になっている
まず、現状を数字で確認します。全職業の有効求人倍率が1.2倍前後で推移するなか、介護関係職種は突出して高い水準が続いています。厚生労働省の一般職業紹介状況をもとにした各種分析によれば、介護サービス職の有効求人倍率は3倍を超える水準で推移しており、全体平均の2〜3倍近い「売り手市場」が常態化しています。
さらに厚生労働省の推計では、介護職員は2025年度に約32万人、2040年度には約69万人が不足すると見込まれています。これは景気変動による一時的なものではなく、少子高齢化に根ざした構造的な課題です。
つまり、施設は「応募者を選ぶ」立場から、「応募者から選ばれる」立場へと変わりつつあります。求人を出せば人が集まった時代は、すでに過去のものになりつつあるのです。
人が辞める理由の上位に「運営のあり方への不満」
では、なぜ人が定着しないのでしょうか。公益財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査」は、離職理由について示唆に富む結果を示しています。
同調査で、前の職場を辞めた理由として繰り返し上位に挙がるのが、「職場の人間関係に問題があった」と「法人・事業所の理念や運営のあり方に不満があった」です。収入面の不満よりも、こうした「職場のあり方」に関する理由が上位を占める点は注目に値します。
| 前の職場を辞めた主な理由(上位) |
|---|
| 職場の人間関係に問題があった |
| 法人・事業所の理念や運営のあり方に不満があった |
| 他に良い仕事・職場があった |
| 収入が少なかった |
出典:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」をもとに作成
「運営のあり方への不満」とは、言い換えれば「自分たちの声が、運営に届いていない」という感覚ではないでしょうか。日々感じている課題や改善の提案が、聞き入れられないまま積み重なっていく。その積み重ねが、離職という形で表れているとも考えられます。
求職者は「働きやすさ」を見ている。でも、外からは見えにくい
一方、仕事を探す側は何を重視しているのでしょうか。求職者向けの各種情報を見ると、給与や勤務地と並んで、あるいはそれ以上に、「職場の雰囲気」「人間関係」「働きやすさ」が重視されていることが分かります。
ところが、これらは求人票の条件面からは読み取りにくいものです。だからこそ求職者は、施設見学での職員の表情、スタッフ同士の会話、職場の整理整頓の様子といった、「目に見えるサイン」から職場の空気を推し量ろうとします。
ここに、一つの「選ばれる理由」が生まれます
「職員の声を聴き、運営に活かしている施設」であることは、求職者にとって働きやすさの何よりの証になります。定着率の高さや職場の落ち着いた雰囲気は、そうした地道な取り組みの積み重ねから生まれるからです。
「声を聴く仕組み」が、定着と採用の両方を支える
職員の声を聴くことは、単に離職を防ぐだけではありません。次のような好循環を生み出します。
課題が見える化される:現場が感じている問題が、具体的な形で共有される
職員が「聴いてもらえた」と感じる:それ自体が、職場への信頼につながる
働きやすい職場が育つ:定着率が上がり、現場に余裕が生まれる
「選ばれる施設」になる:働きやすさが評判となり、採用にも好影響が及ぶ
職員の声を聴くことは、定着(辞めない)と採用(集まる)の両方を同時に支える取り組みだといえます。人材不足が構造的な課題である以上、この好循環をいかに早く回し始めるかが、施設の将来を左右します。
「聴き方」にも工夫が必要です
ただし、職員の本音を引き出すのは簡単ではありません。上司が直接尋ねても、「波風を立てたくない」という思いから、当たり障りのない答えしか返ってこないことも少なくありません。声を聴く姿勢はあっても、その声が本音でなければ、課題は見えてこないのです。
そこで有効なのが、外部機関による匿名アンケートです。回収も集計も第三者が行うことで、職員は安心して率直な意見を伝えられます。内部では表に出にくかった課題が見えるようになり、その分析結果は、職場改善の確かな出発点になります。
こうした取り組みは、処遇改善加算の「職場環境等要件」——職員の意見を聴き、現場の課題を見える化する取り組み——への対応としても活用できます。人材確保と制度対応を、一つの取り組みで両立できるのです。
※ 要件充足の可否は、所管の指定権者にご確認ください。
まとめ
人材不足が構造的な課題となるなか、施設は「選ばれる」立場へと変わりました。離職理由の上位に「運営のあり方への不満」があること、そして求職者が「働きやすさ」を重視していることを踏まえれば、職員の声を聴き、運営に活かす姿勢こそが、これからの人材確保の鍵になります。
その第一歩として、職員の本音を聴く仕組みづくりから始めてみてはいかがでしょうか。私たちは、長崎県認証の第三者評価機関として、外部の立場から職員アンケートをお手伝いしています。単なる集計にとどまらない「考察レポート」で、貴施設の強みと課題を客観的に見える化します。
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